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〜珈琲店の日常風景或いはマスターの独り言〜   
scene 12 マスターと珈琲店は 

マスターは“背景”を感じさせない。
それは
得体が知れない、とか 本心を見せない、とか
そういったことではなくて・・・。

裏側というものの無いひとなのだろうと
少し話していればすぐに知れるのだけれど
はっきりと一線を引いている、
そんな素振りを見せはしないのに
自分の事をあまり話さない彼は
何処かしら不思議な空気を纏っている。
実際、彼の過去を知るものなど殆どいないのだろう。
それは彼が積極的には話をしないというだけで、
きっと隠しているわけでもない。
ただ、誰も聞こうとはしないだけ。
店も然り。
何時の頃からか当たり前に旧道沿いにある珈琲店は
どちらかと言えば目立たない造りであって
そのマスターと同じように、
ある種独特な、一種、儚げと言ってもいいような雰囲気も
確かに抱いてはいるのだけれど
そこに普通に建つ店なのだから
当たり前の来歴は、それなりにあるだろうに
さて、と考えてみるならば
例え常連客であっても
殆ど誰もがそれをきちんと思い描くことが出来ないのだ。
いや、この珈琲店の客であるからこそ、
敢えて尋ねはしないのかもしれない。
いつからどうしてここにあるのかということは
この店には然程の問題では無いのだと、
それぞれが知っているようで。
ここにあること、それが何よりも大切なこと。
そして例えば、
もしかしたらそんなことを知ろうとしたならば
ふっと跡形も無くこの店は消えてしまうのではないか、
なんて有り得ないと分かりながらも
つい考えてしまうような何かも、あるのかもしれない。

やわらかなカウベルが鳴って、
薫り高い珈琲と、
カウンター越しのマスターの穏やかな笑顔。
結局は、きっと
それだけで十分なのだろう。